※実際に労働基準監督署に寄せられた事例です。
1.採用に関する事例
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Q1.労働者(高齢者)が、1日3,000円でいいから働きたいと言っている。
それでも最低賃金以上払わないといけない?(使用者より)
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A.最低賃金法により、使用者は最低賃金額以上の賃金を労働者に支払うよう義務付けられています。仮に最低賃金額より低い賃金を労使合意の上で定めても、それは無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます。これは、賃金額を労使の合意のみで決定することの弊害として、いわば「賃金額の値崩れ」を防止するためでもあります。
ただし例外として、労働局長による最低賃金減額特例許可制度がありますので、詳細に関しては、所轄の労働基準監督署にご相談下さい。
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Q2.試用期間中または試用期間満了時に「うちの仕事に合わないから」という理由で
即日解雇されるのはやむを得ない?(労働者より)
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A.試用期間といえども労働契約は成立しているので、試用期間中、及び試用期間満了時の雇止めは解雇です。
ただし、労働基準法では試みの試用期間中の者を14日以内に解雇する場合は、解雇予告をしなくてもよいとしています。
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Q3.入社してみたら、職安の求人票の内容と違っていますが、このようなことは許されるの?
(労働者より)
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A.求人票は、求人者(会社)が就業規則等に基づいた正確なものを、職業安定所に提出しなければなりませんが、求人票記載内容が、そのまま労働契約の内容となるわけではありません。
労働契約は、締結時に労働者に対して労働条件を明示するよう、労働基準法第15条で定められています。
2.解雇に関する事例
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Q1.仕事上のミスが多い労働者を解雇できますか。(使用者より)
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A.仕事上での能力に問題がある場合は、普通解雇の対象になり得ます。しかし、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である。」と認められない場合は無効ですので、ケースによって個別に考える必要があります。
業務にどれほどの支障があるか、他の業務に転換できないか、教育によって改善の見込みがないかなどを踏まえた上で慎重に判断しなければなりません。
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Q2.懲戒解雇の場合でも、1か月前の解雇予告または解雇予告手当として1か月分の平均賃金を
支払わなければならない?(使用者より)
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A.会社が定めた懲戒解雇事由に該当する解雇であっても、労働基準法の第20条に定める解雇の手続きは必要です。
ただし、懲戒解雇と関連するものとして解雇予告除外認定申請があります。この申請で、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほどの重大又は悪質な業務違反、又は背信行為が労働者に存在する、と労働基準監督署長が認定した場合、解雇の予告等は不要です。
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Q3.懲戒解雇の場合でも退職金は支払わなければならない?(使用者より)
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A.退職金を支払うか否かは就業規則等における退職金規程によりますが、懲戒解雇の退職金を通常解雇等の退職金と差をつけることは、裁判上で懲戒解雇の具体的内容に照らして個別に判断されています。
「『退職金を支給しない』との規定を適用できるのは労働者の永年の勤続の功を減殺ないし抹消するほどの背信行為があった場合に限定される」という判例もあります。
3.退職に関する事例
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Q1.労働者より「今月末で残りの年次有給休暇を全部取ってやめたい」との申出がありました。
急な話で業務に支障もありますが、有給休暇を与えなくてはならない?(使用者より)
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A.労働基準法第39条では、会社は時季変更権の行使により年次有給休暇を他の日へ変更することが可能です。
しかし今回のケースでは変更すべき他の日がないことから時季変更権を行使する余地がなく、請求どおり付与しなければなりません。業務の引継ぎ等も考慮した上、事情を話されて退職日を先に延ばしてもらう等検討してみてはいかがでしょうか。
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Q2.会社の業績が悪く、退職金規程どおり退職金が払えないので、新しい(退職金を切り下げた)規程を
届出したいと考えていますが、労働基準監督署は受理してくれますか?(使用者より)
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A.労働基準法第89条に基づき、意見書を添付の上、届出されるようであれば労働基準監督署は受理することになります。
ただし、届出によって刑事的な責任は免れますが、民事的に有効になるか否かについては別の問題で、次の労働契約法第10条(抄)の規定が参考になります。
(労働契約法第10条)
「労働者の受ける不利益の程度」・「労働条件の変更の必要性」・「変更後の就業規則の内容の
相当性」・「労働組合等の交渉の状況」・「その他の変更に係る事情」に照らして合理的なもので
あるときは、労働条件は変更後の就業規則に定めるところによる。
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Q3.「すぐに会社をやめたい」と言ったら「急にやめるのは困る。就業規則で退職の申出は1か月
以上前になっている。」と返答されました。すぐにやめることはできない?(労働者より)
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A.法の規定では、原則として14日以上前に退職の意思表示をする必要があります。就業規則の規定(質問では1ヶ月前)の効力は、労使の特約として認められる場合もあります。
例外的に、入社時に明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができることとされています。
4.労働時間に関する事例
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Q1.労働者に「休日の急な出勤に備え、いつでも会社に来られるよう自宅にいてほしい」と
言ったところ、労働者から「そのような待機は労働時間になるのでは?」と言われました。
自宅待機を命じた場合でも、労働時間として取り扱わなければならない?(使用者より)
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A.労働時間は、使用者の指揮命令下にある時間を言います。自宅での自由が保障されている以上、指揮命令下にある時間とみなすことは難しいと思われます。
しかし、休日になっている労働者に、行動を制限させることになりますから、何らかの手当を支払うことが望ましいでしょう。
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Q2.社内で行う自主的な勉強会の時間も労働時間になるの?(使用者より)
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A.使用者の指揮命令下にないのであれば、労働時間にはなりません。
労働時間は、使用者の指揮命令下にある時間を言います。指揮命令下とは、使用者がその場に居なかったり、命令していなくとも、実態として指揮命令下にあるのと同等の状態を含みます。
したがって、勉強会が「自主的」と銘打っていても、使用者の関与が強く、出席が事実上強制されている実態にある場合には、労働時間となります。
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Q3.仕事が終わっても早く帰らず、社内でお茶を飲んだり新聞を読んだりしている者がいる。
この時間も残業になる?(使用者より)
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A.単に社内に留まっているだけでは労働時間になりません。
しかし社内の業務内容に関係なく使用者の指揮命令下におかれる時間は労働時間になります。本件が実態として指揮命令の下で社内で待機せざるを得ないようなものであるか確認する必要があります。
5.その他の相談事例
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Q1.職務手当を毎月支給し、残業手当代わりである旨を雇用契約書に明記しています。
それでも残業手当の追加支給が必要?(使用者より)
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A.固定的に残業手当を支給する場合でも、その手当額を超える残業に対しては、追加支給が必要です。時間外労働の実績を把握して、それに応じた賃金の支払いが不可欠です。
なお、職務手当と残業手当とでは意味が異なりますので、時間外割増賃金相当分が幾らなのかを明確にすることが必要です。
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Q2.現在、期間の定めのない契約を結んでいる労働者を、有期労働契約に切り替えることは
できますか。(使用者より)
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A.従来期間の定めのない労働契約を締結していた労働者を、有期労働契約に切り替えることは、本人の合意がない限り許されません。
なお、満60歳が過ぎて定年に達した労働者を再雇用し、本人との間に合意があった場合には、この限りではありません。
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Q3.パートタイマーに適用する就業規則でも届出しなければならない?
(使用者より)
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A.パートタイマーに適用される就業規則でも、会社の就業規則の一部とみなされますので、意見書を添付の上、届出してください。
労働基準法では、意見を求める対象は事業場の労働者(全員)の過半数を代表する労働組合又は労働者を代表する者になりますが、パートタイム労働者等の代表者にも意見を聴くよう努めること、とされています。(パートタイム労働法第7条)
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